驚異の超気功師 王力平

著者は中国のインテリで、現在は気功師として活躍している金孝延氏です。本書は生きた伝説とも呼ばれる気功家、「王力平氏」の半生を記したものです。本書は「全真教」という道教の導師たちが、後継者の少年を探す旅に出る場面から始まります。推背図という占術をヒントにし、見い出した少年が若き「王力平」でした。物静かで体が弱かったのですが勘が鋭く、不思議な才能があったようです。導師たちは王少年の病気を治癒することで縁を結び、本人の自由意志でこの道に入るように誘導しました。修行は過酷で、その詳細な方法論は割愛されているものの、その雰囲気は具体的に描かれていました。道教の目指す境地は「この世が幻であることを知った上で、その外にある世界を自由に探求すること」です。気のエネルギーで満ちたその場所は固定化されて安定したこの世界とは異なり、不動の精神力を身に付けなければひとたまりもありません。まずは瞑想による精神統一で雑念を消す方法を学び、時々に現れる幻影に恐れず真剣に対処するようにアドバイスされます。次に実際に過酷な状況下でも心を乱さないように訓練され、苦痛や恥辱を耐え、飢えや渇きにも心が乱されないようになりました。また器である肉体を鍛えなければ、気も育ちません。そのために王氏は過酷な修行で心と体を鍛え抜き、様々な知識と技術も授けられました。十分な修行を積んだ王少年らは、住み慣れた家を離れて旅に出ます。時は文化大革命で赤い嵐が国中を席巻していましたが、道友に会って足りない方術を習い、己を磨きました。そして旅を終えて帰郷を果たし、その後は俗世間に身を置きながらも周囲と折り合い、気の鍛錬を続けます。導師たちは王氏に次のように告げました。「いつもやさしく謙虚でありなさい。欲のために争わず、勤勉と倹約で家を治め、善を施して陰徳を積み、心は常に自由闊達であるように。家庭を持ってからはその生活を大切にし、病人を治療し、天に代わって道をなしなさい。」そして機が満ちると世に出て、この技術の教授を始めました。その圧倒的な力、超能力的な技術の数々、気功を使った難病の治療の様子などが描かれていました。評者は気に関心があって、これまでも様々な書籍を紐解いてきました。色々な師に付きながらも気の導きに従って独自の道を探求した「高藤聡一郎氏」、生まれながらに圧倒的な力を持っていた超人「張宝勝氏」、南米のシャーマンに入門した「カルロス・カスタネダ」、西洋の魔術師など。本書の王氏の技術や世界観は、こうした人々のものと非常によく似ていて驚かされました。訓練方法はカスタネダらがいう「忍び寄り」に酷似し、「夢見」のテクニックを学び、俗世が幻であることを知りながらも「管理された愚かさ」で静かに過ごし、同時に二箇所で存在する分身、天候操作、治癒技術などの能力を持つなどの共通点がありました。本書で描かれる世界は荒唐無稽なものにも映りますが、語られる内容はリアリティがあって引き込まれました。特に興味深かったのが、中国古典で語られる知識を「生きた知識」として活用していることです。天体の動きを経絡や臓器に関連させる天人相関、「神農本草経」とそれを発展させた「本草網目」を利用した漢方薬の調剤、鍼灸の奥義を示した「難経八十一難」や「黄帝内経」などの知識も自在に扱っていました。また王氏は様々な難病を治療してきましたが、その中で「難病でないのに治らない患者」についての記述が強く印象に残りました。それは「治療に対して強い不信感を抱いている患者」で、このような場合、治そうとする気に抵抗する【対抗体】が生じて治りにくくしていることが述べられていました。そのため王氏はまず対抗体を処理することで治癒に導くのですが、「心理的な抵抗感が病気を悪化させる」ということは興味深いと思いました。本書は当初に感じた印象とは異なり、奥行きがあり、読み応えがありました。気功を実践されている方などにとっては得るところの大きい書だと思います。