いのちの風 (新潮文庫)

モデル小説。主人公のモデルは元日本生命常務の弘世源太郎。物産で働く商社マンの主人公広瀬厳太郎は父が日本生命の社長。社長の強い意向で、厳太郎の引き抜きにかかる。 「同族経営」の弊を懸念する厳太郎であったが、父の妥協な要請、周囲の熱心な勧めで日本生命に入りする。恰幅もよく文武両道、上司、同僚、部下の信頼が厚い厳太郎はここでも持ち前の仕事熱心さを発揮し、現場に近い支社長を経験し、支部長、外務員の絶大な支持を得る。 本社に戻って企業保険部長に。折しも保険業務の国際化が課題とされた時期、厳太郎はアメリカの生保会社との業務提携に手腕を発揮し、さらに法人を相手にした企業保険（団体保険、企業年金保険）を手がけ、法人営業部を設置し、業界先駆けの地歩を築く。他の追随を許さないリーダーシップ、同僚、部下、外務員へのきめ細かい配慮で、激変する生保業界に新風を吹き込んだ矢先、過労、ストレスから肥満に、さらに心臓を痛め、働き盛りのさなか心筋梗塞で死去。苛酷な企業競争のなかで誠実に生きた男の生涯、そのお手本のような小説である。